蛍光ペンの交差点

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この単語を2年間忘れないでいられるだろうか?: 学校が教えてくれない英単語の暗記法について

 

(この記事は、科学的な発見ではなく、僕が英語学習者として採用している現実的な戦略について記述しています。そのため各所が雑ですが、この程度の雑さでも高校での暗記戦略を遥かに凌駕していることが何より重要なことだと思います。僕はこの雑な戦略を2年続けて、確かにこれは続けられそうだと結論しました。)

 

 

多くの人は、新しく英単語を覚えることが難しいと思っていますが、違います。
ほんとうに難しいのは、覚えることではなく、忘れないことです。

 

そんな一般的な言説は聞き飽きているでしょうね。
もっと心が辛くなる表現に言い換えてみましょう。

 

本当に難しいのは、いまあなたが単語帳や文章で目にしている単語に、いまから2年後に出会ったときも本当にいま感じている「よし、覚えてるぞ」という手応えを感じられるか、ということです。

 

uxorious ( /ʌksɔ́ːriəs/ 、アクソリアス) という単語があります。語義は「妻に甘い」です。面白い形容詞もあるものですね。

印象的で、すぐに覚えてしまえそうです。

でも、2年後にuxoriousを見たときに、あなたは正答できる自信があるでしょうか。

 

 

僕がこの記事で伝えたい主張はただ1つです。「記憶の信頼性」をエピソードの強さや先天的な記憶傾向(エピソードだと覚えやすいとか、音を聞くと覚えやすいとか)だけに頼るのは誤っています。忘却曲線に基づく間隔学習法を取り入れた、Ankiなどの信頼できる暗記システムによる学習方略に一生涯を通して切替えるべきです。

 

本当の信頼性は、根拠の無い自信ではなく、信頼できるシステムによって確保すべきです。

 

 

日本人が英単語を覚えにくい理由の根本は、日本の高校までの単語学習法が、長くても「約1年後」に答えられればよい、という妥協をしていたことにあると僕は信じています。その結果として、「1年以上持たない試験特化な記憶法」に全てを頼るという、間違った戦略が悪いクセとして染み付いてしまっています。

 

日本の高校までの単語学習は
授業小テスト → 期末テスト → 半年に一度の実力テスト → 本番(複数回
という反復による習得を目指します。正しいアプローチだと思います。問題は、復習スパンが1年を越えた際の対処法について何も経験していないことです。

 

僕がそのような「途中で切れた」アプローチに違和感を覚えるようになったのは、人間の忘却現象を指数関数で近似したエビングハウスの忘却曲線について調べたあとです。

 

エビングハウスのものに限らず、忘却曲線は、人間がどのぐらいのスピードでものを忘れていくのか推測する上で、ひとつの大切な資料だと認識しています*1

 

忘却曲線という名前自体は誰でも知っています。
その名前を聞くと、以下のようなことを思い浮かべるでしょう。

  • 復習をしないと、覚えた事項の大半を忘れる。
  • 一度復習すると、次に忘れるまでの期間は長くなる。
  • だから、覚えたことは、適宜復習したほうがよい。

 

これらは、別にエビングハウスの原著を読まずとも、誰もが実生活の中で実感している経験的な真実です。ですが残念なことに、これらの事実を理解していながらも多くの人は覚えた事項を復習しないことが事実です。

 

そうそう人間って、覚えたいのに復習しようとはしない、怠惰で悲しい生き物だよねーーーそう理解するのは本当に建設的なのでしょうか?

 

覚えたいのに復習しない、という事実を分けると、
確かに「怠惰」も多く入っています。

 

しかし、それとは別に「いつ復習すればよいのか分からない」という問題と、
何を復習すればよいのか分からない」という切実な問題も含まれています。

 

それは、「まだ覚えているものを復習するのは馬鹿らしい、これから毎日uxoriousを復習しろというのか?」という問題です。

 

これらは単にアルゴリズム(書き出せるほど明確な手順)の問題です。X日後に問題Yを出す、それをシステム側に管理させればよいだけの問題です。機械が管理できるアルゴリズムの問題を、人間の判断に任せるのは非合理です。

 

これらの問題を信頼できるシステムに完全に依拠することができて始めて、
あなたは自分の怠惰だけを根本課題として向き合うことができます。

 

ちなみに僕の場合は、「通学中はAnki以外開かない」「定期的にアプリ内部の統計を見て、1ヶ月に何日間起動したかを確認する(土日は通学しないため、実はものすごく頑張り続けたようであっても24/30日起動だったりする)」というルールを定めたら普通に2年間続きました。怠惰なんて、生活習慣の中にうまく忍び込ませてしまえばなんてことはない問題にすぎなかったりします。現在、僕のAnkiアプリは、自作した1900枚強のカードの日程を管理するシステムになっています。英検1級は鬼のように難しい語彙問題を何とか解いて受かりましたし、海外ドラマ見てて最近覚えた単語が出てくることもしばしばです。

 

とある日の電車の中で、正答を数回続けたカードの次の出題時期が「2.2年後」になっていることに気が付きました。Ankiは、自らのアルゴリズムに基づき、僕がそのカードの内容を2.2年後まで覚えていられるかが微妙なラインだと判断したのです。

 

 

 

大学入学以前に、電車の中で紙の単語帳を読んでいた自分の姿が浮かびました。

あのときの自分には、2.2年後の正答確率なんて意識する目線があっただろうか。

 

 

 

このシステムは自分の「暗記」という訓練への意識を、根本的に変えたのだと思います。寿命の長さからしたら明らかに短すぎる1年間というスパンで忘却曲線を打ち切るアプローチから、いつまでも忘却と付き合って、寿命によって忘却曲線を打ち切るアプローチへ。

 

 

なお余談として、エビングハウスが実験によって出した結論のうち、overlearningと呼ばれる現象はあまり知られていません。overlearningとは、「覚えた」「覚えている」ものについても、更に刺激を加えることで、忘れるまでの期間が長くなることを指します。Ankiをやっていて、正答が続いたとしても、それはきちんと役立ってはいそうだということを、覚えておくと少し気が楽になります。

 

以上の認識を踏まえた上で、多くの人が口にする「英語は大学受験のときが一番できていたな〜」というセリフを、どうしてそういうセリフをみんなが口にするのか、忘却曲線という立場から、もう一度考えてみてください。

 

 

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*1:たとえば、Ankiとはまた別の間隔学習法ソフトであるSuper Memoを作成したPiotr Wozniakは、自身の経験を基にして忘却曲線を構築したように読めます